百物語。その1

秋の夜は長く寒い。夜露は体から熱を奪っていく。逆に傍の相棒の体は焼けるように熱い。どうして、俺たちは農家の作業小屋で、ドブネズミのように身を隠さなければならないんだ。
あんなに上手くやったはずなのに。
俺たちは、とある銀行にあたりをつけ、そこの現金輸送車のパターンを一年かけて調べあげた。銀行に出入りする現金は、狙われないように、スケジュールやルートを不規則に組みあげる。しかし、それをやっているのは人間だ。担当者の癖が、どうしたって出てくる。丹念に調べていく事で、月末なら、3分の1の確率でそれらを特定出来るようになった。俺たちは実行の手筈を整えた。そして、2回目でビンゴを引き当てた。まさに予想通りのタイミングで、予想通りの場所に現金輸送車は来た。俺らは計画通り、コトを進めた。
そして、俺らは大金を手に入れた。
俺らは、危ない橋を渡り、無地に渡り切った。俺たちは賭けに勝ったんだ。
あとは、ほとぼりが冷めるまで、今の生活を続けるだけだった。俺と相棒は、連絡を取り合うこともなく、別々に、嘘の生活を続けた。警察の捜査は進んでいないようだった。今どき珍しいアナログな犯罪に、世間もしばらく騒いだものの、すぐに忘れ去られた。本当の生活を俺たちが手にするまで、もう少しのはずだった。
ある日、相棒が夜中に俺の部屋に訪ねて来た。血の気のない、でも妙に興奮した顔をしていた。それは、何かにとり憑かれた顔でもあった。
「いい話をもってきたんだ。今すぐ、金が手に入る」
そんなうまい話があるはずがなかった。現金とは言え、銀行から盗んだ金だ。使えばアシのつく。だからこそ、一銭も使わず、ほとぼりが冷めるのを待っているんだ。それは、コイツも重々承知の筈だった。俺は、相棒を睨んだ。相棒は、震える手で茶封筒と新聞の切れ端を取り出した。
「に、2枚ある。あ、開けてみろよ」
俺は、それを受け取った。封筒の中に2枚の宝くじがはいっていた。新聞の切れ端を見る。当たりくじだった。1等1億円の当たりくじが2枚。
「なんだ、これは」
「た、宝くじだ」
「これをどうしたんだ?」
相棒は芝居がかった風に手を振って答えた。
「お、俺、こんな生活、も、もう限界なんだ。これさえあれば、金が今すぐ自由に使える。お前にとっても悪い話じゃねぇだろ?」
「おい、お前の分け前、どうしたんだ?」
「ま、前金に渡した。な、悪い話じゃねぇよ。お、俺にそっちの金も預けてくれよ。こうしてお前の分も・・」
「バカ言うな。なんだ? その割に合わねえ取引は。おい、誰だ? 誰に唆されたんだ」
「い、いいじゃねぇか、どうせ遣い切れねぇ」
俺は、膝から崩れ落ちそうになるのを、支えるのがやっとだった。どう考えても、この話はもう後戻り出来ない。こんな話、マトモな連中が持ちかけてくる訳がねぇ。どこでバレたのか知らないが、ここまでしっぽを掴まれては、ヤツラから逃げようが無い。
俺は、しぶしぶその話に乗り、そして、こうなった。
刈り取りの終わった田んぼの脇の、トタンとムシロで出来た粗末な小屋に、腹から血を出して斃れている相棒と俺と二枚の宝くじ。
ムシロとトタンの隙間から外を伺う度に、垂れた夜露が袖を濡らす。震えは、いっこうに止まらない。
相棒の命を救うには、一刻も早く、警察に電話するしかねぇ。
俺は、携帯電話を握りしめた。
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