百物語その6『三笠の月』

彼女の名は「スカイ」。
白野まひるがそう教えてくれた。
白野は、僕の同級生だ。かわいいけど、それに気付いている男子は少ない。そんな、クラスに一人はいるような、あまり目立たない、万年保険委員の、真面目な女の子だ。
だから、白野が夜も遅いというのに、デパートのショーウィンドウの前に座り込んでいるのを見た時には、驚いた。僕は、気分が悪くなったのか、誰かとはぐれたんだと思って、思わず、駆け寄った。
「おい、白野? どうしたんだ?」
彼女は、僕を見るでもなく、何を言うでもなく、体育座りをして、じっと通行人を見つめていた。
僕は、しゃがんで、白野の顔を間近で見た。どうみても白野だった。でも、その真っすぐな視線は、僕の知っている白野ではなかった。でも、顔も、長く黒い髪も、どう見ても白野だった。スカートから伸びたすらりとした脚は、体育の時に盗み見した、白野の脚だった。
僕は、白野の真剣な表情に。少しビックリして、とりあえず、大事な何かを見ているんだろうと、白野の視線の方向を見た。しかし、そこには、普通の人たち……家路を急ぐサラリーマンやデパートの人や学生やら……が、足早に、あるいは一団で楽しそうに会話しながら、通り過ぎて行くだけだった。背景はいつもと変わらない、駅前のデパート前。何を、そんなに真剣に見ているのか、僕には判らなかった。
僕は、白野の横に座った。白野は、僕をチラとも見なかった。僕も、白野を見ずに、前の通行人を観察した。サラリーマンは少し俯き加減に足早に歩き、ケータイの画面が無表情な顔を下から照らしていた。マヌカンたちは疲れた脚を引き摺りながら、それでも楽しげにカタカナでファッションの事を話して歩いていた。大学生らしい人たちはくるくる周りながら、ひとかたまりで楽しそうに歩き、予備校生は、背を丸めて俯いて歩いていた。それぞれ面白いのかも知れないけど、それほど真剣に見るほどのものではなかった。
街路樹の向こうに、月が見えた。僕はその青白くて儚げな光を吸い込まれるようにじっと見ていた。低い所にある月は、動きが速く、少しずつ、街路樹の葉の影に飲み込まれていった。
「なに? 月が好きなの?」
突然、頭の上から降ってきた言葉に、僕は驚いて、隣を見た。白野が立ち上がって、僕を見下ろしていた。
「パンツ、見えてるぞ」
「嘘つけ」
僕は、お尻の砂を手で払いながら立ち上がった。
「月、見てたの?」
「ああ。なんとなくな。ちょっと奇麗だなーって」
白野は、空の月をしばらく見つめた。
「そうね。三笠山の月には劣るけどね」
「あ?三笠?」
「そうよ、魔法の国。なに? あんた、いつからいたの」
「白野、お前、学校とキャラ違うくない?」
「止めて。私の名はスカイ。スカイと呼びなさい」
それが、スカイとの出会いだった。
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コメント / トラックバック2件 to “百物語その6『三笠の月』”

  1. Asna Says:

    俺たちの夢がーーーーーっ!!!

    …なんとなく。
    4年に一度、言わなきゃ!って思うんだよね。

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