百物語その12 『雲の通い路』

「えーっと、立ってるのもなんだから、座ったら?」
彼女は、周りを見回すと、座る素振りも見せず、立ち尽くしていた。
僕の部屋は、いつものように散らかっていた。こんな奇麗な女の子が僕の部屋に来るなんて、生まれてはじめてなのに、こんな有り様とは。我ながらガッカリ。
「散らかってて、ごめん。ちょっと待ってて」僕は、ベッドの上の漫画やら脱ぎ捨てた服やらをどかし、スペースを作った。「ごめんね。ここ、座ってよ」
彼女は興味無さそうに言った。
「気をつかわないで。すぐ帰るから」
それは困る。すぐに帰られては、無理矢理、ここに来てもらった意味がなくなってしまう。
「まだ、時間あるんでしょ? そう言ってたじゃないか」
「ええ。確かに手違いで早く来ちゃったから……」
「だろ? なら、ゆっくりしていってよ。そうだ。喉渇かない? 飲み物持ってくるよ。珈琲?  紅茶? それとも日本茶……はイメージじゃないか」
「気にしないで。私には構わずに、いつも通りにしてていいの」
「いつも通りって言われても」
「じゃあ、私、この部屋から出ましょうか」
「余計落ち着かないよ。そのまま居て」
「わかった」
そう言って頷くと、彼女は、来た時と同じ姿勢で部屋の真ん中に立って、僕を見つめていた。
僕は、机の上に置かれた色々なものを脇に退けて、机に向かった。しかし、この状況で、何か出来る訳がない。
僕は椅子をくるりと回すと、彼女と向き合った。
「どうせなら、何か話をしようよ。せっかくなんだし」
「何かしなくていいの?」
彼女は困惑した顔で言った。
「いいんだ。それより、せっかくだから君の話が聞きたいかな」
「話せる事なんてあまりないわ」
「そうなの?」
「そんな事より、誰か帰ってきちゃう前に……」
「親なら当分帰ってこないけど……見られるとヤバイの?」
「ちょっと面倒かな。何かしたい事はないの?」
「うーん、こんな事、考えてなかったから……。そうだと知ってたら、部屋の掃除くらいしたよ。ヤバいものも隠したしさ」
「それもそうね」
彼女は部屋を見回した。
僕は、彼女が、机の引き出しをやけに見ているような気がして、気が気じゃなかった。2段目の引き出しには、僕の秘蔵コレクションが収まっている。流石にこれだけは、何とかしておきたかったけど、それも叶わぬ夢だ。
2人の間に沈黙が流れた。
「じゃあ、日本茶を頂こうかしら」
彼女が突然言った。
「え?」
「あの、日本茶、貰える?」
「え? ああ、うんいいよ。すぐ準備してくる」僕は立ち上がった。「どうしたの急に?」
「私が落ち着かないと、あなたもそわそわしてるから」
「ああ、うん。そうだね。ありがとう。すぐ持ってくるよ」
「おかしな人。お礼を言うのは、私の方」
「あ、そうか。よかったら、この椅子に……いや、ベッドに腰掛けてて」
彼女は頷いて、羽毛が舞い降りるように静かにベッドに腰掛けた。
僕は、彼女のその所作にいつしか見入っていた。彼女が心配そうに僕を見ている事に気が付いて、僕は慌てて、部屋を出た。
彼女は、そのうち、背中の羽根を広げ、空へ続く回廊を帰って行くのだろう。その時には、きっと僕の魂も一緒に連れていかれるのだろう。
彼女は死神。見かけは天使でも、死神なのだ。僕の魂を連れて行く。
願わくば、大風でも吹いて、天に続く回廊が封鎖されればいいのに。
そうすれば、僕ももうちょっと生きれるし、僕の部屋で天使みたいなカワイイ女の子と、もっと話が出来る。
僕は、そんなたわいの無い事を思いながら、台所で、お茶を淹れている。
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