百物語その14 『しのぶもぢずり』

「おい、なんかブルブルいってるぞ?」
偶然会った中学時代の連れと、酒を飲む事になった。
中学時代は野球部で坊主頭だったが、今こうしてみると、なかなかのイケメンな事に気が付いた。
連れは、飲み屋に入ると、テーブルにケータイを3つ放り出した。今バイブってるのは、そのうちの1つだ。
「あー、ちょっと見てよ」
手羽先の骨と、指についた脂を交互にしゃぶりながら、おざなりに言った。
俺は、目で示された灰色のケータイを手に取った。
「女からの……メールみてぇだぞ?」
「返信しといてくれよ」
連れは事も無げに言った。
「は? イヤだよ。そんな、人のメールなんか見たくもねぇし、返信なんか出来る訳ねーだろ?」
「見なくてもいいから、返信だけ打っといてくれよ」そう言って、連れは、新しい手羽先にむしゃぶりついた。「鳥の脂、ケータイに着くのイヤだし」
「俺だって、他人宛てのメール見るのイヤだし」
「だから見なくていいって。言う通りに返信だけ打ってよ」
そう言って、ケータイを肘で突いて、此方に飛ばしてきた。仕方なしに、俺はケータイを開いた。ちらと見えたメールの内容は、寂しいだの何だのって感じの内容だった。
「何て書きゃいいんだ?」
「えーとな……」連れは食いかけの手羽先の先で空中に円を描きながら言った。「俺が、こんなに心乱れてるのは、誰のせいだと思ってるんだい?……そんなトコで」
「くさー」
「そーいうのでいいんだよ」
連れはそう言うと、また手羽先に集中しはじめた。
また、灰色のケータイが鳴った。
「おい鳴ってるぞ?」
「誰?」
「さっきと違う女」
「じゃあ、さっきと同じ文章送っといて」
俺は、なんだかなぁと思いつつ、面倒なので言われた通りにした。
また、灰色のケータイが鳴った。
「さっきの女からだぜ? あ、もう一通来た。ああ、これもさっきの2番目の女からだ」
連れは、俺からケータイを奪い取った。片方の眉だけがピクリと上がった。
「どうした?」
連れは怪訝な顔をして、言った。
「彼からのメールが同じだから、おかしいと思って確かめたら、友達にも手を出してたのね……だってさ。そういや、コイツラ、友達だったっけ」
そう言うと、連れは灰色のケータイを、店の隅のゴミ箱に投げ入れた。
ゴミ箱は、ごとんと音を立てた。
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