百物語その15 『春の野』

僕は、野原で草を摘んでいた。
その草がいっぱいあれば、ニーカウのお母さんが、おいしいサラグアを焼いてくれると信じていた。
畑の畝を、戦車が踏みつぶして行く。
戦車は、水牛が大きな角を誇らしげにする時みたいに、その砲塔を高く掲げ、ゆっくり前へ進んだ。戦車が、間をあけて、街へ向かっているところは、羊の群れを狙う狼たちのようだった。灰色のコートを着た兵隊が、黒い銃を抱え、戦車の周りを、子牛みたいに歩いていた。
戦車は、昨日の夜、西からやってきた。
西には行っちゃイケないって、言われている。
2日前、西の山が明るく輝いた。それは一瞬だったけど、大人たちが、みんな表に出て、その山を見ていた。
僕も、山の向こうが大変だって事は、大人の表情からわかった。
戦車のエンジン音が、低く垂れ下がった雲に吸い込まれて行く。
僕は、野原で草を摘んでいる。その腕に白いものが降ってきた。雪だと、そ野時は思った。
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