百物語その16 『まつとし聞かば』

最新ツイート:帰宅ったー。今日は残業無し、うれしーw 50分前
残業を追え、家に戻り、ツイッターに書き込みをしようとした時、「いまなにしてる?」の下に、そんな事が書いてあるのに気が付いた。
覚えのないツイートだった。
私は、TLを遡った。確かに、50分前にそのツイートがあった。私のツイートだった。
50分前といえば、私はまだ仕事場に居た。会社はツイッター禁止だし、なによりそんな書き込みした覚えがない。
私は気味が悪くなって、パソコンを閉じた。
どうせ、普段から「帰宅ったー」「おやすみなさい」そんなpostしかしていない。私が元気な事さえ伝われば、それでいいのだから。
私の呟きは7人のフォロワーの中の、たった1人に向けられている。
私は元気で待っているんだよーって、伝わればそれでいい。遠い国にいる彼に。
私が、泣き言を呟いた時には、彼が約束通り、すぐに帰ってきてくれる事を夢見て。
次の日。
私は家に戻ると、パソコンを広げた。「いまどうしてる?」の下に書き込んだ。
「帰宅ったー。今日は残業無し、うれしーw」
書いてから、私はハッとなった。
TLを遡った。昨日と全く同じツイート、そして同じ時間だった。そして、それから30分後に、私が書いていない、私のツイートがTLに紛れ込んだ。
「帰宅ったー。今日はいつもとおなじくらい」
次の日。
定時に帰ってきた私は、ツイッターに書き込んだ。
「帰宅ったー。今日はいつもとおなじくらい」
その3分後。覚えの無い私のツイートが、TLに紛れ込んだ。
それから、私は、プライベートな出来事を書き込むようになった。謎のツイートも、同じように、個人的なその日の出来事が呟かれるようになった。
アイコンを一日おきに替えたりもした。
そうして、数日後、私は確信していた。
謎の呟きは、一日未来から来ていた。
そうとしか考えられなかった。明日に起こる事は、ツイートを見ればわかった。未来のツイートは正確だった。ある日、前触れもなく未来のツイートは東証株価平均を呟いたこともあった。その数値は、翌日のものだった。私は、その新聞の数値をそのままツイートした。
そんな事もあって、しばらく面白がっていた私も、次第に気持ちが悪くなってきていた。私の行動が、未来からのツイートに支配されている気がした。
以前のように、「帰宅ったー」「おやすみなさい」しかツイートしないようになった。
ある日、会社から帰ってきて、パソコンを見て驚いた。
未来の私が、数ツイートに渡って、泣き言を書き込んでいた。あなたがいなくてどんなにか寂しいか、どんなにか辛いのか、どんなにか悲しいのか、そして、あなたの事をどんなに心配している事か……
それを見て、私は言いようの無い不安に襲われた。
明日の私に、一体何が起こるのだろう。今日の私は、泣き言を呟いても、あなたが帰ってこないかもしれないという恐怖で、胸がいっぱいなのに……
次の日。
結局、変わった事は何も起こらなかった。拍子抜けして帰宅して、パソコンを立ち上げた。
見慣れた「いまなにしてる?」の下に、こう書いてあった。
最新ツイート:帰宅ったー。まさか、帰ってきてくれるなんて。ごめんね。でも、うれしーw 20分前
私は、それを見て、涙が出た。そして、その時の思いを叩きつけるようにツイートした。文面は、未来からのツイートと全く同じになった。
次の日。
彼は帰ってこなかった。
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