Archive for 2010年7月

百人一首物語 その55 「名こそ」

2010年7月31日

「見ろ、ガンダムじゃあ。このガンダムが日本を守ってくれるんじゃぞ。この雄姿、よう、見ておれ」
濃い霧の中、爺ちゃが指さす先には強襲艦が黒い塊となって海の上を進んでいた。甲板の上にはガンダムが、まるで閲兵を待つ兵士のように、静かに並んでいた。僕には、そのもの言わぬ鉄の塊が、この国を守る神像のようにすら思えた。
「さぁ、帰るぞ。今日は漁は終わりじゃ。軍艦が通った跡は、魚が寄りつかん」
爺ちゃは、そう言うと、舵を漁港へ向けた。
「爺ちゃ、なんでああいう大きなロボットの事をガンダムって言うだ?」
「ああ?」爺ちゃは、舵をとりながら、僕を振り返った。「知らん。ただ、昔から、ああいう大きなロボットはガンダムと言う事になっちょる」
「昔からか?」
「昔からじゃ。理由があるンかも知れんが、今は判らん。言葉とは、そういうもんじゃ」


「滝の音は 絶えて久しく なりぬれど 名こそ流れて なほ聞こえけれ」

百人一首物語 その54 「忘れじの行末」

2010年7月30日

昨夜、夢を見た。
忘れられない結末だった。
今日開催の競輪の最終レースの夢だった。1着が3番と2着5番。それ以外は全部、落車するのだ。結果は大荒れ。3万を超える万車券だった。夢の中で僕が持っている車券は5−3の裏目。僕は膝から崩れ落ち、そこで夢から覚めた。
僕は、その足で競輪場へ向かった。そして、最終レースの3−5に全財産をぶち込んだ。
最終レース直前に、借金取りに見つかった。
僕は夢の話をした。「その夢、当たられば天国、外れてたら命ないぞ」と言って、借金取りも車券を買った。
遂に、最終レースが始まった。
夢は……正夢だった。
僕は、がっくりと膝から崩れ落ちた。
「2台を残し全員落車。結果は5−3の万車券か。夢の通りだな」
そういうと、借金取りはニヤリと笑うと、僕の肩を叩いて去って行った。
「おい! 僕の事殺せよ! いっそ殺せよ!」
借金取りは、手にもった車券をヒラヒラさせて、言った。
「半分は、お前にやるよ。借金に当てとく。残りは働いて返しやがれ」
借金取りの買った車券は「5−3」だった。
「いいか。金のないヤツほど、裏目を引くんだよ」
そう言い残して、借金取りは去って行った。



「忘れじの 行末までは かたければ 今日を限りの 命ともがな」
将来まで私の事忘れないっていうのは、難しいでしょうから、今日、このまま死にましょうよ。

百人一首物語その53 「夜」

2010年7月29日

おそらくは、未だ夜は明けぬのだろう。
部屋の温度が下がっていた。私は、暖炉に新たな薪をくべ、灰をかきだした。小さな炎が上がる。炎が小さなダンスを踊る。それにあわせて背後で、影が1人、大きくダンスを踊る。
私は再び、お気に入りの椅子に戻り、深く腰掛け、天井を仰ぎ見る。
季節が、冬を迎えるこの時期で良かった。この小屋は雪に閉ざされる。この時期なら、それを見越して、食料も水も薪も、2人がひと冬過ごすに充分な量がある。それを1人で使う訳だから、半年はもつ。理由は分からないが、この夜が明けないのなら、それでもいい。飽く迄つき合ってやろうと、半ば自棄で思っている。
実は、朝が来るのが怖いのだ。
朝が来ても、彼女がこの小屋に来なかったとたら……そう思うのが怖いのだ。
彼女が、この小屋に来ないのは、いつまでも夜が明けぬからだと思いたいのだ。
雪が、雨戸を激しく叩く。
風が強くなってきたようだ。
夜は長い。
私は、椅子の背もたれに体を預け、目を閉じた。



「嘆きつつ ひとり寝る夜の 明くる間は いかに久しき ものとかは知る」
嘆きながら1人で寝る夜は、なんて長いんでしょう。

百人一首物語その51「朝ぼらけ2」

2010年7月28日

夜が明けた。
そっと窓を開け、外の様子を窺う。外は、既に明るく、濃い影と光が、夏のコントラストを作っている。「朝ぼらけ」は、どこかに行ったのだ。
私は窓を開け、外に出ると、家の周囲に仕掛けた罠を一つ一つ丹念に調べ、「朝ぼらけ」が掛かっていない事を確かめる。やはり、こんな罠では小さかったのだ。今朝方、扉越しに感じた「朝ぼらけ」の気配は、もっと大きなものだった。地面を這いずり回る音、その強烈な腐臭、地面を伝わってくる振動、全てが規格外で、こんな鹿用の罠ではおいつかない事を示していた。
今日は、熊用の罠を街へ買いに行こう。「朝ぼらけ」は私を狙っている。存在が近くなってきている。夜は怪物や獣の時間だ。それまでに、罠を仕掛けなければならない。
私は、この家を守らなければならない。



「明けぬれば 暮るるものとは 知りながら なほ恨めしき 朝ぼらけかな」
朝が来てしまった。そのうち夜が来て、また貴女といちゃいちゃ出来るとは思うけど、それでも、夜明けはムカつくのです……リア充め!

百人一首物語その51 「さしも草」

2010年7月27日

「うん、ここまではいいんじゃない?」良子が、書きかけの便箋に目を通すと言った。「まぁ、書き出しが拝啓って言うのは、ラブレターにはちょっと堅過ぎる気も」
「いやー止めてぇええ!」
私は反射的に手を伸ばし、便箋を手で覆う。
「なんだよ急に……」良子が怪訝な顔する。私は、ゆっくり手を引っ込める。すると、良子は私の気持ちを、彼女なりに察してくれる。「ああ、ラブレターってのが恥ずかしいのか」
私は頷いた。良子は私の頭をナデナデして言った。
「かわいいなぁ、あきちゃんは」
すぐに良子は、私をちっちゃい子供扱いする。私は、ちょっとだけムッとするけど、でも、良子のナデナデは実は嫌いじゃない。
ひとしきり撫でたあと、便箋に目を戻すと、良子は私に言った。
「で。問題はこの続きだろうと思うんだけど」
私は頷いた。そこが問題だと思うから、良子に見てもらう事にしたんだ。
「どう思う?何を書けばいい?」
「そうねぇ。やっぱり、あきちゃんの熱い思いを書くと良いんじゃない?」
「熱い思い……」
「そう。熱い思い。それをそうやって伝えるかが、まさに問題よね……まぁ、ここは月並で良いんじゃない?」
「月並?」
「うん、そう。喩えでいいんじゃないかな」
「喩え……」
「そうよ、喩え。何々みたいに、あなたへの私の心は燃えています……とかいいんじゃない?
「んーと、『お灸』とか?」
「お灸?」
「そう、お灸。さしも草とか……駄目?」
「いや、駄目とか言うより……お灸はちょっと可愛くないんじゃないかな?」
「かわいくないか。でもさ、良子ちゃん。別に可愛くなくてもいいんだけど」
私が言うと、良子は立ち上がって、私の肩に手を置いて言った。
「駄目。あきちゃん、かわいいんだから、そこをアピールしないと」
「かわいくなくていいよ。だって、私、男なんだし」
「駄目。あきちゃんは、可愛い路線の方がいいと思う」
断言されてしまった。そんな事、納得出来る訳ないんだけど、良子は貴重な女の子目線から考えてくれている訳で、私としては、良子の意見は尊重したい。
「そっか。なら他の考える」
良子は、再び、私の頭を撫でた。



「かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしも知らじな 燃ゆる思ひを」
よもぎみたいに熱い思いを、あなたは知らない……とか何とか。

百人一首物語その50 「命さえ」

2010年7月26日

だからさぁ、どうせ自殺するんだったら、キミカたんに一目あってから死にたいとかって思うじゃない。だからさ、キミカたんが銀行行った時にね、銀行強盗すればいいんじゃないかなって思う訳。
え? なんで誘拐じゃないのかって? 馬鹿だな。そんな事したら、キミカたんに迷惑かかるじゃない。だって、誘拐とかされてごらんよ。クソオタども、絶対、犯されたに違いないぜ!とか2ch書くに決まってるだろ? 
んにゃ、俺なら書くね。せっかく、キミカたんは声優としてこれからな訳だから、ファンとして、その邪魔はしたくない訳じゃない。だから、銀行強盗して、その人質の中にキミカたんがいるって状況の方が理想的だと思う訳よ。
それに、誘拐だと、ピンポイントで狙ってますって感じじゃない。キミカたんも気持ち悪いと思うんだよね。そりゃ、僕の事を、「このうす汚ねぇストーカーめー!」って蔑んで見てくれたら、なんというご褒美!って思うけどさぁ。それに、キミカたんと二人っきりだなんて、何話していいか判んなくなるよ。それも嫌だ。
で、銀行強盗に失敗して、人質何人か取って、立て篭もるい訳。で、警察にも包囲される訳じゃんか。そうすっと、僕がさ、スワットに狙撃されるまで、一緒にいれる訳じゃない? で、僕としてもさ、偶然と装ってキリカたんと出会える訳だし、他にも人質がいるなら、自然にお話出来るような気がするんだよな。そうなったら、もー僕、全然死んでもいいじゃんね。むしろ、キリカたんの前で死にたいものね。素敵じゃない?
きっと、僕の死に、キリカたん同情してくれるよ。ほら、ストックホルム症候群ってあるじゃない? となると、もしかしたら、キリカたん、僕の事、好きになるかも知れないじゃないか。
うわー、どうしよう?
うかうか死んでいられねーぞ?
マジ、どうしたらいい?




「君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな」

百人一首物語その49 「火」

2010年7月25日

「あの黒い棒、何だか知ってる?」
斉藤は、ここに来る途中にある南国風居酒屋の入口にある鉄の棒の事を突然、訊いてきた。
勿論知っている。今は明るいから消えているが、暗くなると、あの棒の先に火が灯される。先からガスでも出るのだろう。南国風のドアの左右に灯された篝火は、幻想的な雰囲気を醸し出す。
その事を斉藤に伝えると、斉藤は大きく頷いてから、続けた。
「そうなんだ。でも、それは夜にこの店の前を通ったから知っているんだけど、昼間しかここを通らない人にとっては、おそらくは謎のままだろうと思うんだ。そうは思わないかい?」
僕は頷いた。確かに、昼間にこの棒を見ただけでは、判らない事だろう。しかし、それがそうしたというのだろう?
斉藤は、僕の視線に気付いたのだろう。腕を組んで、言った。
「物事の一面から見ても、判らないって事だよ」
ようやく斉藤の言いたい事が判った。僕は訊いた。
「つまり、編集の僕から見て、斉藤先生は遊んでばかりいて、原稿が進んでいないように見えるけど、それは、ある一面にすぎない……と、そういう事ですか?」
「うん。だから、もうちょっと待って?」



「御垣守 衛士のたく火の 夜は燃え 昼は消えつつ 物をこそ思へ」
どこぞの門兵が焚く松明みたいに、夜は燃えあがって、昼間は賢者タイム……そんな感じの僕の恋。

百人一首物語その48 「岩」

2010年7月24日

○悩み相談室

Q「同じクラスに好きな女の子がいるのですが、彼女は勉強も出来て、スポーツも出来て、僕にとっては高嶺の花です。どうしたらいいでしょうか」
A「Go for brokeだよ」

Q「旦那の帰りが最近遅く、おかしいので携帯電話を見た所、どうやら浮気相手がいるようです。週に2度ほど、こっそり会っているようなのです。どうしたらよいのでしょうか」
A「そりゃあ、Go for brokeだよ」

Q「この日本では、世代間格差が社会問題になっています。この閉塞感を打ち破るには、思い切った改革が必要だと思いますか?」
A「Go for brokeしかないよ」

Q「イツキがかわいすぎて、生きるのがツライ」
A「Go for broke」



「風をいたみ 岩打つ波の おのれのみ くだけて物を 思ふころかな」
風が吹き波は荒れようとも、波は岩を砕く事はない。僕の思いみたいに玉砕するのみさ。あはは。

百人一首物語その47 「八重葎」

2010年7月23日

夏になると、怪談やお化け屋敷などが盛んになるのですが、あれは涼を求めてというより、そういう事例が夏は多いからだそうです。僕自身は霊感とか全くない方なのですが、やはり興味はあります。そこで、夏の終わりに、「よく見える」と噂の宇多島というヤツに、とびきりの物件を案内して貰う事にしました。宇多島は、それなら七生診療所がいいだろう、と言った。そこは「夏になると霊が集まる」ので有名なのだと言うのです。宇多島は、ちょうどいい、今から行こうと言うや否や、僕を車に乗せました。車は街を離れ、どんどん山の方へと向かっていきました。月のない夜に、鬱蒼と茂る森は黒い塊のようでした。車は、黒い塊をヘッドライトで切り裂きながら、走って行きました。途中ですれ違う車はただの一台もありませんでした。「そろそろ敷地に入るぞ」宇多島は言いました。宇多島は車を降り、錆びた門を開け、車に戻ってきました。門を潜り、しばらく走って、車は停まりました。廃墟は、ヘッドライトに照らし出され、暗闇の中にぼんやり佇んでいました。小さな診療所なのでしょう。小高い山の麓に建つその建物は、殆どを山に飲み込まれているように見えました。赤い瓦はところどころ剥がれ、窓ガラスは割れるか、磨りガラスのように汚れ果てていました。壁という壁には蔦が巻きつき、人の領域から外れている事が、人目でわかりました。知り合いは、懐中電灯をとり出し、車のエンジンを切りました。ヘッドライトも消え、僕らは暗闇に飲み込まれました。そいつは、懐中電灯の心細い明かりを頼りに、どんどん歩いていき、診療所のドアを開けました。懐中電灯の光で、中をぐるりと見渡すと、僕を振り向いて、こう言った。
「駄目だわ。秋が来ちゃってる。誰も残ってねぇわ」
どうやら、山ではもう季節は秋らしい。




「八重葎 しげれる宿の さびしきに 人こそ見えね 秋は来にけり」
蔦とか絡まって寂しい人気のない家にも、秋は来るのねぇ。

百人一首物語 その46 「行方も知らぬ」

2010年7月22日

「どう思う?」
どう思うかなんて、訊かれても困る。
とりあえず、僕は当たり障りのない曖昧な返事をする。
先輩は、モニターを睨みながら話を続ける。
「そりゃあ、私から電話する訳にもいかないし。こういう事をメールで済ますって言うのも、ホント、済ますって感じでイヤだしっと! よっしゃ、最初の所は大丈夫と」
そう言うと、先輩は愛用のキーボードを勢い良く叩いた。
「先輩、彼氏の前でも、そんな言葉遣いしてないでしょうね?」
先輩は立ち上がった。向かいのモニターの上から、先輩が僕を睨みつけた。
「してる訳ないでしょ」
どーだか。
僕は肩をすくめてみせた。先輩は納得いかないのか。まだ僕を睨みつけている。
「で? 彼氏と連絡を取らなくなってから、どれくらい経つんですか? 3日? 4日?」
先輩は睨むのを止め、どっかと椅子に座った。椅子がぎしりと悲鳴を上げた。
「1ヶ月……」
僕は溜息をついた。
「先輩……申し上げにくいんですけどね」
「わかってる!」先輩は鋭い声で制止した。「皆まで言うな。私だってわかってるんだ」
しばしの間、重苦しい沈黙が続いた。僕は仕方なく、遠慮しながらキーボードを叩いた。
しばらくはじっとしていた先輩も、再び、キーボードを叩きはじめた。打鍵音が、いつもの勢いを取り戻しはじめた頃、先輩がしみじみ漏らした。
「あーあ、どうして私の恋は、この仕事みたいに、先が見えないんだろ」
「縁起の悪い事を言わないでください」
「おい! 鈴木」先輩は立ち上がって、モニターの上から顔を出した。「コレ終わったら、飲みに行くぞ」
「じゃあ、がんばりますか」
「おう」
先輩はニヤリと笑うと、再び、勢い良くキーボードを叩きはじめた。



「由良の門を 渡る舟人 梶を絶え 行方も知らぬ 恋の道かな」
なんか、漂流してる舟みたいに、私の恋はどこ行くか判らん感じ。