百物語その29 「白菊」

まひるは、今日もそこにいた。
この前と同じように、百貨店のショーウィンドウの前に座り込み、前を通り過ぎる人たちを見ていた。
僕は、まひるの隣に座った。
まひるは、僕の顔をちらと見て、また視線を通行人に戻した。
「なぁ、まひる……」
「スカイ」
即座に、本当に即座に訂正された。
ああ、そうだった。白野まひるは、ここでこうしている時は、『魔法使いの弟子』で、その名を『スカイ』というのだった。それは、彼女のルールで、僕はそれに従わなければならない。それが、昨夜僕がまひるに約束した事の唯一の事だった。
ーーここにいたかったら、私のルールに従ってーー
「ごめん、スカイだった」
僕は謝った。スカイは黙っていた。少なくとも、拒否はされていないと解釈した。
まひるは突慳貪だが、スカイは更に輪をかけてそうだ。もはや、ナイフとか、そういう凶器系の喩えしか思いつかない対応だ。
「スカイ。その、お前が倒しているというゾンビだけど……」
スカイは振り向くと、僕を睨みつけた。鋭い眼光、森の奥にある泉のように深い色を湛え光が踊る瞳、長いまつげ。まひるの整った顔立ちが凄みに拍車をかける。僕は、スカイの放つ眼光に押されながら言葉を繋ぐ。
「僕には、フツーの人にしか見えない。昨日、お前がやっつけたヤツだってそうだ。フツーのサラリーマンを、お前が殴り殺したようにしか見えなかった」
僕は、スカイが今も持っているスティックに目を向けた。
小さな羽が生え、カットされたガラス玉がはめ込まれた、魔法のスティック。どう見ても単なる玩具にしか見えないそれで、スカイはサラリーマンをフルボッコにした。こんなに人通りが多い所で、殴り殺した。そして、驚く事に、その様子を見たものは僕しかなかった。少なくとも、誰も見えているような素振りは見せなかった。
馬乗りになって、サラリーマンの頭を殴り潰したスカイが立ち上がって、僕の方を見た時には、そのサラリーマンの屍は消えていた。
「あれが、ゾンビ」
「それもよくわかんねぇんだけど、まぁ、ゾンビでいいよ。問題は、そのゾンビが何で分かるの?って事を聞きたいんだ。僕には誰でもいいから殴り殺しるようにしか見えない。」
すると、スカイは、組んでいた腕をそっと解き、通行人たちを指さした。
「ここに菊の花が並んでいるとする。一本だけ白い花があって、残りは全部紫だ。仲間はずれはどれだ?」
「白い花」
「そうだ。だが、もし、白い霜が一面降りてしまって、辺り一面、全てを白くしたとしたら?」
「どれかわかんねーと思う」
スカイは頷いて、ニヤリと笑った。
「でも、一輪だけは白い菊なのさ」
そう言うと、スカイはスティックを構え、猛然と人ごみに向かって走り出した。



「心あてに 折らばや折らむ 初霜の 置きまどはせる 白菊の花」
初霜が降りちゃったら、白菊一本おるのにも、手当たり次第折らないといかんのとちゃう?

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