百人一首物語 その40 「色」

「佳乃ぉ。そういえば、信夫主任の今度の思い人って誰?」
「そうそう、ウチの課もその話題で持ち切りなんだけどさ。それが、今回は誰が相手か判んないのよー」
「えー? そんな事ある? だって、あの信夫主任でしょお?」
「そうよ。あの、すぐに顔に出る信夫主任よ」
「好きな人の傍にいるだけで、顔が赤くなるんでしょ?」
「そうよ。好きな人が同じ部屋にいるだけ、赤くなる信夫主任よ。だから、今回も好きな人が出来たって事は判るの。でも、誰が相手か、そこがわかんないの」
「でもさ、幸子なら知ってるんじゃないの?」
「幸子? 信夫主任と同じ課の?」
「そうそう」
「あ、それはダメ。幸子をはじめ、営業一課全員が信夫主任の味方だもの。絶対教えてくれないって」
「そうなの?」
「そうよぉ。この前、信夫主任、総務の斉藤さんにふられたじゃない。あれって、結局、信夫主任が行動に移す前にバレちゃって、ごめんなさいって事になっちゃったんだって。ほら、仲よくなるより先に、好きだーとか聞いちゃうと、変に意識しちゃったり、気持ち悪く思っちゃったり、うまくいかないじゃない? それを気にしてるみたいで、今回は、トップシークレットみたいなのよ」
「トップシークレットって言ったって、信夫主任の顔見れば、すぐわかるじゃない」
「そうなんだけど、結局、あれって、顔が赤くなる瞬間ってのが一番よく判るわけじゃない?」
「ん?」
「ほら、会社ではさぁ、二人っきりになるって、ほとんどないじゃない。二人っきりで信夫主任の顔が赤くなったんなら、誰が思い人かすぐわかるけど、沢山の人がいる所で、赤くなったって、誰が相手かしぼれないじゃない」
「ああ、そういう事ね。じゃあ、その顔が赤くなる瞬間に誰が来たかを聞けば……」
「わかるんだけど、いつも一緒に居るのは、営業一課でしょう? 営業一課は教えてくれない訳。だから、わかんないのよ」
「なるほどねぇ」
「この前、えーと先週? 一課の人に誘われて、飲みにいったんだけどさ。信夫主任、本当、いい人だったよ。男前だし、仕事も出来るし、みんなから好かれててさ。彼女が出来ないのは、ホント、あの癖のせいだから、一課の人たちも真剣な訳よ」
「なるほどねー。まぁ、あの癖も、周りからしてみれば、すっごく可愛いんだろうけどね」
「確かに。だからさー。私、隣の部屋じゃない? 気になるから、事あるごとに、一課を覗くんだけど、私が見ると、いつも顔赤いのよ。だから、ホント、お相手は誰なんだろうって」
「いつもねぇ……私、なんとなく判っちゃった」
「えー? 嘘ぉ? 誰? ちょっと、教えてよ」
「佳乃には教えなーい」
「もー! 教えてよー、ケチ」




「忍ぶれど 色に出でにけり 我が恋は 物や思ふと 人の問ふまで」

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