百人一首物語 その43 『後の心に』

彼女は、幼い頃から空ばかり見ている子供だった。ハイハイを始めた頃から、窓際で空を見上げている事があったし、自分の足で自由に歩きはじめると、それは偶然ではない事に、親は気付きはじめた。そして、はじめてのお散歩に出た時、砂場や様々な遊具を目の前にして、空をずっと見続け立ち尽くしていたのを見た時、親は、何らかの異常を確信した。
彼女が保育園に入ってからは、あまりに長い時間、空を見ているので、発育に少し問題があるのではないかと、先生方が心配するほどであった。
空の『何』が、彼女の心をそうまで引きつけるのか、それは、長らく両親にも、そしておそらく本人にも謎だった。彼女が大きくなり、自分の心を言葉で表現出来るようになって、ようやく、その思いの確信に皆が気が付いた。
そう。彼女は、空が飛びたかったのだった。
あの空を、感じたかったのだ。
一体となりたかったのだ。
風を切り裂き、雲と一緒に漂い、頬の産毛をなびかせたかったのだ。
言葉にする事で、彼女の思いは形を持つようになった。その思いは、彼女の現実の世界を形をもって侵食するようになった。
彼女の両親は、ここに来て、ついに行動に移した。彼女をパラグライダーの体験に出したのだ。一度、憧れが現実のものと慣れば、その病は落ち着くだろうと、親は考えたのだ。
そして、その時の空での経験が、彼女の後の人生を、完全に決定づけたのだった。



「逢ひ見ての 後の心に くらぶれば 昔は物を 思はざりけり」
あこがれの人に逢ってみると、余計に思いがつのります。逢うまでは、何も考えてなかったなって思ってしまうぐらいに。

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