百人一首物語 その46 「行方も知らぬ」

「どう思う?」
どう思うかなんて、訊かれても困る。
とりあえず、僕は当たり障りのない曖昧な返事をする。
先輩は、モニターを睨みながら話を続ける。
「そりゃあ、私から電話する訳にもいかないし。こういう事をメールで済ますって言うのも、ホント、済ますって感じでイヤだしっと! よっしゃ、最初の所は大丈夫と」
そう言うと、先輩は愛用のキーボードを勢い良く叩いた。
「先輩、彼氏の前でも、そんな言葉遣いしてないでしょうね?」
先輩は立ち上がった。向かいのモニターの上から、先輩が僕を睨みつけた。
「してる訳ないでしょ」
どーだか。
僕は肩をすくめてみせた。先輩は納得いかないのか。まだ僕を睨みつけている。
「で? 彼氏と連絡を取らなくなってから、どれくらい経つんですか? 3日? 4日?」
先輩は睨むのを止め、どっかと椅子に座った。椅子がぎしりと悲鳴を上げた。
「1ヶ月……」
僕は溜息をついた。
「先輩……申し上げにくいんですけどね」
「わかってる!」先輩は鋭い声で制止した。「皆まで言うな。私だってわかってるんだ」
しばしの間、重苦しい沈黙が続いた。僕は仕方なく、遠慮しながらキーボードを叩いた。
しばらくはじっとしていた先輩も、再び、キーボードを叩きはじめた。打鍵音が、いつもの勢いを取り戻しはじめた頃、先輩がしみじみ漏らした。
「あーあ、どうして私の恋は、この仕事みたいに、先が見えないんだろ」
「縁起の悪い事を言わないでください」
「おい! 鈴木」先輩は立ち上がって、モニターの上から顔を出した。「コレ終わったら、飲みに行くぞ」
「じゃあ、がんばりますか」
「おう」
先輩はニヤリと笑うと、再び、勢い良くキーボードを叩きはじめた。



「由良の門を 渡る舟人 梶を絶え 行方も知らぬ 恋の道かな」
なんか、漂流してる舟みたいに、私の恋はどこ行くか判らん感じ。

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