百人一首物語その49 「火」

「あの黒い棒、何だか知ってる?」
斉藤は、ここに来る途中にある南国風居酒屋の入口にある鉄の棒の事を突然、訊いてきた。
勿論知っている。今は明るいから消えているが、暗くなると、あの棒の先に火が灯される。先からガスでも出るのだろう。南国風のドアの左右に灯された篝火は、幻想的な雰囲気を醸し出す。
その事を斉藤に伝えると、斉藤は大きく頷いてから、続けた。
「そうなんだ。でも、それは夜にこの店の前を通ったから知っているんだけど、昼間しかここを通らない人にとっては、おそらくは謎のままだろうと思うんだ。そうは思わないかい?」
僕は頷いた。確かに、昼間にこの棒を見ただけでは、判らない事だろう。しかし、それがそうしたというのだろう?
斉藤は、僕の視線に気付いたのだろう。腕を組んで、言った。
「物事の一面から見ても、判らないって事だよ」
ようやく斉藤の言いたい事が判った。僕は訊いた。
「つまり、編集の僕から見て、斉藤先生は遊んでばかりいて、原稿が進んでいないように見えるけど、それは、ある一面にすぎない……と、そういう事ですか?」
「うん。だから、もうちょっと待って?」



「御垣守 衛士のたく火の 夜は燃え 昼は消えつつ 物をこそ思へ」
どこぞの門兵が焚く松明みたいに、夜は燃えあがって、昼間は賢者タイム……そんな感じの僕の恋。

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