百人一首物語その51 「さしも草」

「うん、ここまではいいんじゃない?」良子が、書きかけの便箋に目を通すと言った。「まぁ、書き出しが拝啓って言うのは、ラブレターにはちょっと堅過ぎる気も」
「いやー止めてぇええ!」
私は反射的に手を伸ばし、便箋を手で覆う。
「なんだよ急に……」良子が怪訝な顔する。私は、ゆっくり手を引っ込める。すると、良子は私の気持ちを、彼女なりに察してくれる。「ああ、ラブレターってのが恥ずかしいのか」
私は頷いた。良子は私の頭をナデナデして言った。
「かわいいなぁ、あきちゃんは」
すぐに良子は、私をちっちゃい子供扱いする。私は、ちょっとだけムッとするけど、でも、良子のナデナデは実は嫌いじゃない。
ひとしきり撫でたあと、便箋に目を戻すと、良子は私に言った。
「で。問題はこの続きだろうと思うんだけど」
私は頷いた。そこが問題だと思うから、良子に見てもらう事にしたんだ。
「どう思う?何を書けばいい?」
「そうねぇ。やっぱり、あきちゃんの熱い思いを書くと良いんじゃない?」
「熱い思い……」
「そう。熱い思い。それをそうやって伝えるかが、まさに問題よね……まぁ、ここは月並で良いんじゃない?」
「月並?」
「うん、そう。喩えでいいんじゃないかな」
「喩え……」
「そうよ、喩え。何々みたいに、あなたへの私の心は燃えています……とかいいんじゃない?
「んーと、『お灸』とか?」
「お灸?」
「そう、お灸。さしも草とか……駄目?」
「いや、駄目とか言うより……お灸はちょっと可愛くないんじゃないかな?」
「かわいくないか。でもさ、良子ちゃん。別に可愛くなくてもいいんだけど」
私が言うと、良子は立ち上がって、私の肩に手を置いて言った。
「駄目。あきちゃん、かわいいんだから、そこをアピールしないと」
「かわいくなくていいよ。だって、私、男なんだし」
「駄目。あきちゃんは、可愛い路線の方がいいと思う」
断言されてしまった。そんな事、納得出来る訳ないんだけど、良子は貴重な女の子目線から考えてくれている訳で、私としては、良子の意見は尊重したい。
「そっか。なら他の考える」
良子は、再び、私の頭を撫でた。



「かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしも知らじな 燃ゆる思ひを」
よもぎみたいに熱い思いを、あなたは知らない……とか何とか。

広告

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中


%d人のブロガーが「いいね」をつけました。