百人一首物語その53 「夜」

おそらくは、未だ夜は明けぬのだろう。
部屋の温度が下がっていた。私は、暖炉に新たな薪をくべ、灰をかきだした。小さな炎が上がる。炎が小さなダンスを踊る。それにあわせて背後で、影が1人、大きくダンスを踊る。
私は再び、お気に入りの椅子に戻り、深く腰掛け、天井を仰ぎ見る。
季節が、冬を迎えるこの時期で良かった。この小屋は雪に閉ざされる。この時期なら、それを見越して、食料も水も薪も、2人がひと冬過ごすに充分な量がある。それを1人で使う訳だから、半年はもつ。理由は分からないが、この夜が明けないのなら、それでもいい。飽く迄つき合ってやろうと、半ば自棄で思っている。
実は、朝が来るのが怖いのだ。
朝が来ても、彼女がこの小屋に来なかったとたら……そう思うのが怖いのだ。
彼女が、この小屋に来ないのは、いつまでも夜が明けぬからだと思いたいのだ。
雪が、雨戸を激しく叩く。
風が強くなってきたようだ。
夜は長い。
私は、椅子の背もたれに体を預け、目を閉じた。



「嘆きつつ ひとり寝る夜の 明くる間は いかに久しき ものとかは知る」
嘆きながら1人で寝る夜は、なんて長いんでしょう。

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