百人一首物語その72 「波」

わたしは、今日もこの浜辺に来て、海をじっとみている。穏やかな波が、浜辺の砂を洗う。くりかえし、くりかえし。
波が穏やかなこの浜辺だが、いろいろな条件が重なって、途轍もなく大きな波が起きる時がある。それも、本当に突然に。
わたしも、一度だけ、その波に立ち会った。堤防の上から見ていたわたしの袖が濡れてしまうほど高い高い波だった。
荒れ狂う自然を前に、わたしは、ただ膝が震わせながら、波を見続けた。
その波の中に、わたしは人が泳いでいるのを見た。
わたしは目を疑った。
だが、それは間違いではなかった。一人の男が、波間に見え隠れしながら、沖へ沖へ泳いでいた。わたしは、先ほどまでの恐怖も忘れ、男を見入った。
男はある時、方向を変え、立ち上がった。男を押し上げる様に波が盛り上がる。そこまで来て、わたしは、その男がサーフィンをしているのだと気づいた。男は、その大きな波を乗り切った。
それは夢の様な光景だった。
あれから一年経つ。
あの光景を見たいからなのか、あの男を一目見たいからなのか、どちらかはわからないが、今でも、わたしはこうして浜辺に足繁く通っている。



音に聞く 高師の浜の あだ波は かけじや袖の ぬれもこそすれ

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