百人一首物語その77「瀬」

体に染みついたタイミングで、ロッドを前後にゆっくり振る。繰り出されたラインも独特の軌道を描き、宙を泳ぐ。ラインの先には、ヘラジカの毛で作ったエルク・ヘア・カディス。トビケラを模したと言われるこのフライは、定番であり万能だ。始めての渓流も、慣れ親しんだ渓流も、このフライであたりをとる。
流れの早い瀬を、岩陰を中心に流しながら、渓流を遡上していく。
流れは、岩の大きさ、流速、蛇行の具合、深さ、底石の色、そして景色を目まぐるしく変えながら、流れていく。その変化を感じ取りながら、それぞれに適したポイントに、フライを投げ入れ、魚影を探していく。時には川底の石をひっくり返し、水棲昆虫の種類を確かめながら。
川は必ず、上流から下流へと流れる。音や気配も、流れに沿って伝わっていく。だから、気配が魚に伝わりにくいよう、遡上しながら釣っていく。
上流へ上がるにつれ、二股に別れた川が、再び一つになる事はない。どちらかが支流。もう一方より、より細く小さくなるだけだ。その時々の選択が、釣果を左右する。
釣りを終え、下流へ戻って行く時に、流れが分かれても、また一つになる時もあるのだと、ぼんやり思うだけだ。それは総じて、意味がない些細な事だ。



「瀬を早み 岩にせかるる 滝川の われても末に 逢はむとぞ思ふ」

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