百人一首物語その79 「秋風」

どうやって病院を出たのかわからない。
気が付くと、私は公園を歩いていた。
どこに向かっているという訳でもない。歩きたい訳でもない。ただ、あの場所にいる事に耐えられなかった。居続ける事が出来なかった。あのまま、父の病室へ行く事が出来なかった。
だから、私は病院を出たのだろう。そして、こうして公園を歩いている。ただ、歩いている。
こういう時、ドラマなら土砂降りの雨が降るのだろう。夜の街を、傘もささずに、びしょ濡れになりながら歩くのだろう。
そんな気分だった。
無茶苦茶にされたい気分だった。
だが、今日は曇りだった。
秋の気配を色濃く載せた風が、公園の木々を騒めかせ、どんより垂れ下がった雲を、忙しそうに運んでいくばかりだった。
私は立ち止まり、空を見た。
雲に阻まれ、星は見えない。雲間から、月の光だけが時折、零れ落ちる。母の涙のように。
こういう時に、泣けない私は。
私なりの役割が、あの場所にあるのだろうか。



「秋風に たなびく雲の 絶え間より もれ出づる月の 影のさやけさ」
秋風に飛ばされて出来た雲の隙間から、月の光が差してきて、きれい。

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