百人一首物語その81「ほととぎす」

初音ミクのライブには、当然のように徹夜組の行列が出来ていた。そして、僕も当然、その列に並んでいた。
初夏とはいえ、夜が明ける直前は、とんでもなく寒い。座り込んだ地面からは、エアクッションを突き抜け、寒気がお尻に染み込んでくる。足は小刻みに震え、体に巻き付けた毛布も、夜露に濡れて外側はしとどに濡れ、実は凍っているんじゃないかと思うほど冷たくなっている。
最初はお祭り騒ぎにハイテンションだったみんなが、次第にうつむき、うずくまり、疲れ果て、じっとしていた時……どこからか歌声が聞こえてきた。
その歌声!
初音ミクだ。
誰もがそう思った。
起きている人は顔を上げた。
振り向いた。
数人は立ち上がりもした。
僕も、思わず、立ち上がった。
初音ミクの声は、脳裏から聞こえてくるのか、本当に聞こえているのか、わからないほど微かだった。
だけど、聞こえる。
立ち上がった幾人かが、一斉に同じ方向を見た。
当然、僕もそちらを見ていた。同時だった。みんな何かを感じたんだと思う。
僕は、コンサートホールの外梁の上に、人影を見た。
今あらためて見ると、そんな人影は見えなかった。
でも確かに見た。
そんな気がした。
立ち上がった数人が、目配せをする。
「いたよな。確かにミクがそこにいたよな」
みんなの目は、そう言ってる気がした。
今は、その人影は見えない。
そこには、明るくなりはじめた空に、月がぽっかり浮かんでいるだけだった。



「ほととぎす 鳴きつる方を ながむれば ただ有明の 月ぞ残れる」
ほととぎすが鳴いた方を見たら、明け方の月が見えるだけだった。
※ホトトギスは夏を告げる鳥として貴族に愛されていたそうです。なかでも、最初の鳴き声は『初音』といい、特に好まれたそうです。その『初音』を聞く為に、貴族は山の中で徹夜をしたのだそうです。

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