百人一首物語その82 「涙」

「悪魔は男のことで、女の場合は魔女という」というのは、『奥様は魔女』で覚えた知識だったっけ。
その真偽はともかく、僕のところに来た悪魔は、女の子だった。
「願い事を言いなさい。叶えたげる。その代わり、魂ちょーだい」
かわいい顔をして、さらりと言うものだから、その言葉は不思議と迫力があった。
僕の願いは単純だ。
斉藤ゆかなと付き合う事。
僕は、斉藤ゆかなの事が好きで、夢が叶うなら死んだってイイって、マジで思ってた。
だから、魂くらいくれてやる気で、僕は契約書にサインをした。
悪魔は、矢印のように尖った尻尾をピンと立て、蕩けたように笑った。なるほど、悪魔は女に限る。この小悪魔め! と、僕はその時に思ったもの。
その日から、僕と斉藤ゆかなの距離は、ぐんぐん急接近していった。
そして、舞台は整った。
夜、街明かりの見える公園、クリスマスイブ、折しも雪が舞いはじめた。斉藤ゆかなは、息が白いねとはしゃいでから、「さむいね」と僕の手を握った。彼女の体温と震えが伝わってくる。ただ、寒さで震えているだけではない事が判る。
「好きだ。付き合ってくれ」
その言葉は、自然と口から出た。
何かに、背中を押されるように。
斉藤ゆかなは、涙を浮かべながら、笑って……。
その返事を聞いた時。
僕は、不思議と、涙が止まらなかった。
景色が涙で歪む。
おわかれだ。



「思ひわび さても命は あるものを 憂きに堪へぬは 涙なりけり」
思いの通じない人の事を思うと、死にそうになるけど、死ななくて、涙がぼろぼろ。

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