百人一首物語その83 「道」

空手の道を究めるには……
そう思って、やはりここは山籠もりだろうと、夏休み最後の週に、市内のとある山に籠もる事にした。
期間は一週間。
ジャングルハンモックと薄手の寝袋、コンロや一週間分の食料などを特大のバックパックに詰め込んで、熊除けの鈴を鳴らしながら、山を登った。
ちょっと悩んだけど、一週間しかないので、眉は剃らなかった。
一日目は、キャンプベースを設営する事から始まった。
ハンモックはテントと違って、設営が楽だ。なにより、浸水に気をつけた、期間を考えて丈夫に設営したりしなくて済む。だから、なにより修業が出来るという事と水が確保出来るという二点を優先する事が出来た。万が一の事を考えて、携帯の電波が届く場所も確認しておいた。1日2回、ランニングのついでに留守録やメールを確認して、僕から生存確認のメールを送れば、それで充分だろう。
2日目からは修業に集中する環境が整った。入念に体をほぐし、ランニングで体を暖め、型をやり、気を練り、座禅をし、肉体改造に努め、木の幹を殴った。結局、一番困るのは、蚊にかまれる事だった。
3日目は、キャンプの場所を移動した。前の場所の近くにスズメバチが出たからだ。
ワンパターンな食事には飽きたし、コンビニに無性に行きたくなったけど、そこはぐっとこらえて4日目が過ぎた。
その日の夜、遠くで鹿の鳴き声が聞こえた。実に寂しそうな声だった。
僕は寝袋の中で、鹿を拳で殺す方法を夢想しながら、眠りについた。
次の日。
僕は山を下りた。
別に鹿が怖かったからじゃない。修業を断念したからでもない。
朝起きると、残り3日分の食料が無くなっていたからだ。
どうやら、昨日の鹿に食べられてしまったらしい。




「世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る 山の奥にも 鹿ぞ鳴くなる」

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