百人一首物語 その98「みそぎ」

私の周りの篝火の光が、まるで、私を閉じ込める檻のようだ。いや、逆だ。私を闇から守る為の檻だ。
風が、篝火を揺らすだけで、私の心も一緒になって脅える。私は、川下を凝視する。川下に広がる、村の明かりを見つめる。その中から一つの明かりが川に沿って、上がってくるのを待っている。
今日、今から行われるのは儀式は大祓といって、半年に一度行われる溜まった穢れを祓うためのものだ。夏の場合は茅でできた輪を、左まわり右まわり左まわりと八の字に三回通る儀式も行われる。全国的に行われる一般的な儀式だけど、我が村のは少し違う。
毎年選ばれた少女が、日が沈んでからひとりで、この小川に運び込まれた茅の輪に、右・左・右と回るのだ。
この儀式の意味はわからない。でも、村にとっては、とても重要な儀式らしかった。
今年は、その少女に、私が選ばれた。
父と母は、複雑な顔をして、しぶしぶ了承した。
100歳を超える祖母は、私が選ばれた事を伝えると、涙した。
あの、下から上がってくる小さな炎が、儀式で使われる茅の輪だろうか。
なぜ、私を送りだす時に、祖母は泣いたのだろうか。
「大丈夫、何もなければ、無事戻ってくるよ」
そう言って泣いた祖母の目は、今まで、この儀式で、何を見てきたのだろう。
「風そよぐ  ならの小川の  夕暮は  みそぎぞ夏の  しるしなりける」
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